今日は9月9日。重陽の節句。
全てのものが陰陽で表されるという考え方のなかで、偶数は陰の数、奇数は陽の数。奇数で最も大きな「九」がふたつ重なるから、九九は重陽。
陽の数字である九がふたつも並んで、世界の気配が陽へと傾きすぎるから、気配のバランスが不安定になる時期となっている。季節の変わり目でもあるから、身体や心の不安定さも一層感じられる。そこで、あらためて、身を清めはらい、日常をつつがなくすごせますようにとまじないをかける日が重陽、9月9日。
重陽の日は年の節目。ちょうど菊の季節に当たるから、菊の節句とも呼ばれる。
露ながら折りてかざさむ菊の花 老いせぬ秋の久しかるべく
古今和歌集. 紀友則
菊の花に降りた露をつけたままに、冠に花を飾って。老いることのない秋が長く続きますようにと願おう。といった意味の和歌が残っている。
菊の花は、とても薫り高い。強い香りは邪気を払うと信じられていたから、菊の花に落ちてその香りをうつした露は霊水として、長寿と健康を願う薬のように取り扱われる。菊の葉なの露を集めることが難しい時には、菊の花を酒に浮かべてその香りを移し、菊酒を長寿のためのまじないとした。
そろそろと、秋が近づいてきている。菊の花も、少しずつ咲いてくることだろう。
菊の花びらを浮かべて飲むお酒は風流に感じられる。花の香りが少し酒にまじるから、いっそう秋の気分が強くなる。けれどもカレンダーの9月9日には、なかなか菊の花に会えない。もう少し先になるだろうか。
菊の花に会えないならば、実家にいたころのように秋のナスをおかずに食べようか。実が少し締まった秋のナスは、いくらでも食べられそうな味わいの濃い野菜になる。身体を冷やす効果もあるそうだから、夏の暑さが残っているこの時期の身体にはちょうどいい。
けれど、菊の花も食べたいな。
菊の花びらをむしって、軽くゆでておひたしや酢の物にして食べることを、東北地方勤務のころに覚えた。菊の香りのする、しゃっきりとした歯ごたえのほろにがい食べ物。体の疲れをとり、内臓の弱りを助ける効果があると教わった。体の中にのこった気だるい夏の疲れを溶かしてくれるのが、菊の花だときいた。
東京あたりでは食用の菊の花が、スーパーマーケットに並ぶ時期になった。野菜のコーナーにおいてあるかな、どうだろう。次、スーパーに立ち寄るときには気をつけて、菊の花を探そうか。
菊の花を食べ、秋を迎える用意を身体からはじめる頃合いが来た。
この秋も、健康に過ごせますようにと祈りながら、菊の花を探す。