歯医者へ行った。
上の歯と下の歯が重なり合って閉じるよう、噛み合わせの調整。
一番奥にある歯はインプラント(人工歯)。歯のねっこの部分はボルトでできており、その上にセラミックでできた白い歯のかぶせものがついている。
初めに入っていた歯は、少し高さが低かったようだ。しっかりとものをかみづらくなっていた。
口を閉じたとき、ならんだ奥歯がほどよい高さで並ぶよう、まわりの歯と同じ高さにあわせる。
ものさしのようなパーツを奥歯のボルトに差し込み、適切な歯の高さをはかる。
奥歯の高さをはかりおえるまでのあいだ、 人工歯 が入っていた部分にものさしがさしこまれ、じつに間抜けな歯ができあがる。
食べ物をかみあわせる面より高く、金属でできたものさしがにょっきり。
うっかり口を閉じると、ものさし部分の金属で上の歯が欠けてしまう。用心して、口を開けたままにしておかねばならない。
油断すると、口はじわっと閉じてくる。
歯医者さんの診療台にのってる緊張もあり、うっかり眠気もやってくる。
ツバメの子どもが、ぴーちく親を待っているときのように。ぱこっと大きく口を開けて。
歯の高さをはかり終えるのを待つ。
ものさしが、歯の上面からはみだしているのは、ほんの数ミリ。
その数ミリのでっぱりをかまなければいい。
口を最低限開けておけば間に合うのなら、ぴーちくツバメのように全開にしておく必要はない。
けれど、最低限の高さで口を開けつづけることは、難しい。
鏡をつかって口の開いている大きさを確認しているわけではない。
ただ、口を開けている感覚だけで、じぶんの口の開き方を感じている。
疲れてくれば、同じように口を開けているつもりでも、少しずつ口は閉じてくる。
金属の先端をうっかり噛んでしまいそうになり、びっくりして口を開けなおす。
ふいにやってくる、金属の感触におびえるよりは
がばっと口を開ける。その形を保つほうが時間をすごしやすい。
中途半端な形。
それが、ほどよく疲れない形であったとしても、形を保つことは難しい。
形を保つなら、はじめない形か全開の形か。両極の形をこころがけることのほうが、より、やりやすい。
中途半端、ほどよく、中庸な。ニュートラルな形。
ほんとは、そこが一番。本人が疲れずしっくりとくる様子である。
けれど、なかなかニュートラルなじぶんを続けられないと感じている。
それは、全開で動くか。はじめないか。その両極のほうが、こころが落ち着いてしまうからかもしれない。苦しい感覚があったとしても、確実に、その位置を保つことができるから。
……そんなことを考えていた歯医者での時間。
でも、外から見たら、ばこっと口を開けたまぬけな姿。
考えていたことと、外から見えるじぶんの姿のギャップに、ちょっともだえた午後。