新しき 年の始の 初春の 今日降る雪の いや重け吉事
詠み人は大伴家持, 万葉集 巻20.4516.
5月1日に新しくはじまった「令和」は、万葉集のことばからつけられた元号。
5月2日は八十八夜で、「八」は「や(いや)」。「ますます」という意味を持つ。
……と書いたところから連想したのが、冒頭の歌。万葉集の一番最後にのせられている、新しい年を祝う歌です。
5月だけれど、年号が変わり。街の中もどことなく新年の雰囲気を感じます。
ふつかめの今日。大粒の雨がばさっと短時間降り、もわんと白くけむった景色をみました。
それもあって、新年をうたった万葉集最後の歌「新しき~」を思い出したのです。
「新しき 年の始の 初春の 今日降る雪の いや重け吉事 」の意味
歌の詠み。(あらたしき としのはじめの はつはるの きょうふるゆきの いやしけよごと)
この歌は、お正月(当時は立春)を祝ったときにうたわれました。
「あらためて迎えた新しい 年のはじまりである 立春の日。今日、この日に降る雪のように 吉事がますます重なりますように(よきことがたくさんありますように)」くらいの意味合いです。
万葉集が作られてきた時代、言霊(ことだま)が信じられていました。言葉にしたものが現実をひきよせる。そして、言葉の力を強く引き出すのが歌であるとされた時代でした。
こうなりますように、と願うものを歌にしてよみあげることで、言霊が一層つよくなる。
「改めて迎えた、この新しい年も。よきことがたくさんありますように」と願いを込めたのが、この歌です。
初春の雪は実りの豊かさを表す
立春のころに雪が降ると、冬眠している虫たちは雪に埋もれ、稲が実る夏ころに活動する虫の数が減るという。そこから、初春の雪は豊年をしめすことばとなった。
雪は白く。白は、純粋で清浄なようすを意味する。
令和もよきときでありますよう
令和が始まった。新しいときのはじまりだ。時代の区切りの中で新年をむかえたといえるだろう。
新しき年も実り豊かに過ごせますように。
万葉集の歌の中に見た「初春の雪」を5月に見ることはできない。いまこの時期に雪が降ってこようとしても、雪は雨になる。雨が降った今日のこと。白い霧がまいた景色のこと。覚えておこうと思った。
「新しき 年の始の 初春の 今日降る雪の いや重け吉事 」
(改めて迎えた、この新しい年も。よきことがたくさんありますように)